現金とは
この章からしばらくは、今まで簡単にしか学んでこなかった個々の取引について、より詳しく見ていきます。
まずは、「現金」(資産)に関する取引からみていきましょう。
現金といえば、通貨つまり紙幣や硬貨のことを普通は思いだしますね。
しかし、簿記で扱う「現金」の範囲はもっと広く、銀行や郵便局に持っていけばすぐに通貨に引き換えることができる紙券も現金として取り扱います。
通貨代用証券と呼ばれる以下の紙券は、いずれも現金として処理されます。
- 他人振出小切手
- 送金小切手
- 為替
- 期限の到来した公社債の利札
- 配当金領収証
1~3の小切手や為替は、銀行や郵便局ですぐに現金と交換できるものです。
見たことがない方も、これらが問題で出てきたら「現金」だと判断してしまってください。これらの勘定科目を使った仕訳の例は次のようになります。
現金 | 800 | 売上 | 800 |
4は、国債(国が発行した債券)や社債(企業が発行した債券)には、利札という利息をもらえる紙券が付いていて、国債や社債を購入した企業は、利札に記載されている期日以降ならいつでも、この利札を切り取って銀行に持っていくと、利息分のお金を受け取ることができます。
注意が必要なのは、換金した時点で現金として処理するのではなく、利札に記載されている期限が到来した時点で現金(資産)の増加と同時に「有価証券利息」(収益)または「受取利息」(収益)を計上することです。
仕訳の例は次のようになります。
現金 | 500 | 有価証券利息 | 500 |
5は、他の企業が発行した株式を持っていると、その企業からの配当金の支払いとして配当金領収証が送られてきます。
この紙券を受け取ったら、現金(資産)の増加として処理をすると同時に、「受取配当金」(収益)を計上します。やはりここでも、換金した時点で現金として処理するのではなく、配当金領収証を受け取った時点で、現金(資産)の増加と同時に「受取配当金」(収益)を計上することです。
現金 | 500 | 受取配当金 | 500 |
現金過不足とは
毎日頻繁に行われる現金取引では、記帳漏れなどにより、現金の帳簿残高と実際有高が一致しないことがあります。
こんなとき、次の2つのステップで処理をします。
現金の帳簿残高を実際有高に一致させるとともに、「現金過不足」という仮の勘定科目を立てておく。
後日、差額の原因が判明したら、「現金過不足」を正しい勘定科目に修正する(振り替える)。
- 現金の帳簿残高を実際有高に一致させるとともに、「現金過不足」という仮の勘定科目を立てておく。
- 後日、差額の原因が判明したら、「現金過不足」を正しい勘定科目に修正する(振り替える)。
たとえば、次のような仕訳になります。
現金 | 200 | 現金過不足 | 200 |
帳簿残高¥3,800を実際有高¥4,000に修正するということにご注意ください。
現実が正しいのです。
ですから、帳簿残高の現金を¥200増やすため、借方は現金を¥200増加させ、相手勘定科目(貸借反対側の勘定科目)として「現金過不足」を一時的に計上しておきます。
次に、差額の原因が判明した場合の処理について見てみましょう。
現金過不足 | 200 | 受取手数料 | 200 |
この処理によって、帳簿上は現金過不足が相殺され、現金の増加の原因は受取手数料(収益)であることが記録されます。
これは、今行った2つの仕訳を、合わせて見てみるとより明確です。
現金 | 200 | 現金過不足 | 200 |
現金過不足 | 200 | 受取手数料 | 200 |
確かに現金過不足が相殺され、受取手数料を現金で受け取ったことがわかりますね。
ちなみに、決算をむかえても原因のわからない現金過不足については、「雑損」(費用)または「雑益」(収益)で処理しますが、これについては、決算の章で扱います。
当座預金とは
当座預金とは、決済専用に作った利息の付かない銀行口座のことです。
当座預金口座を開設し、小切手帳を購入(1,000円ぐらいします)します。商品代金の支払時などに、小切手に金額を書いて切り離し相手に渡します。
仕訳の例を見てみましょう。
当座預金 | 600 | 現金 | 600 |
現金(資産)の減少と当座預金(資産)の増加という仕訳です。
他の例も見てみましょう。
支払利息 | 100 | 当座預金 | 100 |
支払利息(費用)の増加と当座預金(資産)の減少という仕訳です。
最後に引っ掛け問題を1つ。
現金 | 400 | 貸付金 | 400 |
他人振出小切手は「現金」(資産)でしたね。
自分(自社)が振り出す小切手は常に「当座預金」(資産)、他人(他店)が振り出す小切手は常に「現金」(資産)を用います。注意しましょう。
当座借越とは
手持ちに現金がなくても、金額を書き込むだけで支払手段となる小切手は便利なものです。
だからといって、調子に乗って小切手を振り出しすぎると、当座預金の残高を超えてしまい、小切手を受け取った人はその小切手を現金化することができなくなってしまいます。
この状態のことを、不渡りといいます。
不渡りになると、全金融機関に”不渡りを出した会社”ということで通達が回り、信用はがた落ち、事実上倒産してしまいます。
そんな不渡りを防ぐため、事前に銀行と当座借越契約を結んでおきます。
当座借越契約を結んでおくと、銀行は一定の限度額までなら残高を超えて小切手の決済に対応してくれます。
この残高を超えた引出分を当座借越といいます。当座借越は、銀行からの一時的な借金と考えられます。
当座借越の仕訳には二勘定制と一勘定制の2つの方法があります。まずは、試験によく出る二勘定制の方からみていきましょう。
二勘定制とは、 「当座預金」(資産)と「当座借越」(負債)を用いて処理をする方法です。
(1)当座預金の残高を超えて小切手を振り出したとき
借入金 | 3,000 | 当座預金 | 2,000 |
当座借越 | 1,000 |
二勘定制では、当座預金残高を超えて小切手を振り出した場合、足りない金額を当座借越(負債)として処理します。
(2)当座預金の入金によって当座借越が返済されたとき
当座借越 | 1,000 | 売掛金 | 4,000 |
当座預金 | 3,000 |
当座預金への入金があった場合、当座借越(負債)をまず返済し、それを上回る金額について当座預金(資産)とします。
では、次に一勘定制をみていきましょう。
一勘定制とは、「当座預金」と「当座借越」という勘定科目を用いずに、「当座」という勘定で処理をする方法です。
(1)当座預金の残高を超えて小切手を振り出したとき
借入金 | 3,000 | 当座 | 3,000 |
一勘定制では、当座預金の入出金をつねに当座で処理します。
(2)当座預金の入金によって当座借越が返済されたとき
当座 | 4,000 | 売掛金 | 4,000 |
返済の場合も同様に、当座だけで処理します。
小口現金とは
商品を売ったり買ったりしたときなど、大きな金額を取り扱うのは企業の会計係の仕事ですが、比較的少額の、お茶代やタクシー代などは、会計係とは別に用度(ようど)係という係を設けて、小口の現金の管理を任せることがあります。
ただし、仕訳は常に「会計係」が行うことに注意が必要です。
そして、用度係が管理するお金のことを、小口現金といい、会計係は「小口現金」(資産)で処理をします。
小口現金を支給する方法は、一般に定額資金前渡制度(インプレスト・システム)が採用されます。
定額資金前渡制度とは、一定額のお金を用度係に前渡ししておくという方法です。
一連の流れを見ていきましょう。
まず、会計係が用度係にお金を渡すことから始まります。
小口現金 | 6,000 | 当座預金 | 6,000 |
用度係へ渡したお金は小口現金(資産)に振替えます。
なお、用度係が経費を支出した場合、支出時点では会計係は仕訳を行いません。
記帳しない |
このとき、用度係は何に使ったのかという記録は、別の帳面にしておきます。
月末などに、用度係の報告を受けて、会計係が仕訳を行います。
交通費 | 1,000 | 小口現金 | 2,000 |
通信費 | 500 | ||
消耗品 | 500 |
用度係の報告を受け、小口現金(資産)を各費用に振替えます。
最後に、減少した小口現金の分だけ、補給をします。
小口現金 | 2,000 | 当座預金 | 2,000 |
なお、用度係からの報告と、会計係からの補給が同時に行われる場合には、上の2つの取引を一気に行ったと考え次のように記帳します。
交通費 | 1,000 | 当座預金 | 2,000 |
通信費 | 500 | ||
消耗品 | 500 |
それでは、この章の確認問題にチャレンジしてみよう!
現金預金取引確認問題1
現金預金取引確認問題2
現金預金取引確認問題3
現金預金取引確認問題4
現金預金取引確認問題5
現金預金取引確認問題6
現金預金取引確認問題7
現金預金取引確認問題8